近年、MBD (Model Based Development)による製品開発は自動車のみならず、船舶、航空機、複写機、建築、さらには楽器にまで拡大している。従来のMBDは制御装置開発のためのモデルを活用した設計、開発であったが、Modelを広くシミュレーションで使うモデルまで含めるようになったため、制御装置開発に限らず、製品開発全般でMBDの言葉が使われている。そのMBD活用の狙いは、製品開発の効率化と製品機能の向上である。
一方、その製品機能のロバスト性の向上については、MBDの中はもとより、ロバストネスを基調としている品質工学界においても、一時「マクロ視点」すわなち、個別最適化だけでなく、全体最適化を目指すべきとの方向性が示され、複雑系製品機能のロバスト性向上について発表や論文公開が多くなされると期待したが、ほとんどは個別最適化で、社会損失ではなく、会社や組織における効率化をテーマにしたもので、製品のロバスト設計についてマクロ視点での研究はなかったように思う。
筆者自身は、2014年に「エンジン開発上流工程における品質工学の適用」1) の発表と論文公表、2018年に「品質工学とV&V, シミュレーションによるロバスト最適化」2) の論説公表、そして2019年春の発表大会において「MBDと品質工学による複雑系ロバスト化」で発表している。これらは、一貫して「複雑系のロバスト設計」のプロセスと、それを実現するための品質工学とMBDの役目についてのものである。しかし5年を経た現在、各所での議論を通して、概念をより具体化する方向には向かい、品質工学会の中でもIT活用視点での議論は活発化しているが、MBDと品質工学の間で、用語についても解釈のギャップがあり、用語の背景にある考え方についてさらに徹底した議論が必要であると感じている。そこで本論では、「機能」「モデル」「ロバスト設計」など、MBDと品質工学のどちらでも用いている用語について、筆者独自の定義と用法を述べる。
参考論文
1) 沢田龍作, “ピストンオイル保持機能を通したエンジン開発上流工程における品質工学の適用”, 品質工学, Vol. 22, No. 6, pp. 19-27, 2014年12月.
2) 沢田龍作, “品質工学とV&V, シミュレーションによるロバスト最適化”, 品質工学 27(6), 14-18, 2019